元上司の思い出

 

社会人になって3年ほど経った頃、知らないことやできないことはないんじゃないか、と思わせるようなスーパー上司の部下になった。どうやって大量の難問や仕事をこなしているのかそばでじっと仕事ぶりを観察していたところ、いくつかの点に気がついた。

ひとつめ。自分のすべき仕事を裏紙に順番にリストアップしていき、上から順番に処理していた。じっと何日も見ていたけれど、まったく例外がない。常に上から順番に処理して、終わったら定規で線を引いて項目を消していく。

ふたつめ。どんな人が、どんなタイミングで話しかけても常に即答していた。ちょっと困らせてやろうと思って即答できない相談や質問をすると、「誰それに聞いてみて」、と即答である。

みっつめ。どんなときでも陽気で笑顔であった。そして大柄なスポーツマンであった。

上司と部下、という関係が終わる頃、「問題は先送りしてはいけない。上に立つものは明るくなければならない」、と自ら話しをされた。

私は自分の性格を変えるのは難しいと思うので、問題を先送りするのだけはやめようと思っている。

 

 

ミッション・インポッシブル

「おはよう、フェルプス君。さて今回の君の使命だがXXXである。例によって君もしくは君の仲間が捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。なお、このテープは自動的に消滅する。」 そしてオープンリールのテープレコーダーから煙がモクモク・・・
というシーンを懐かしく思う方は私と同世代以上だろう。当時のテレビシリーズの日本語タイトルは「スパイ大作戦」であった。もはやトム・クルーズ主演映画の方が有名であるが、煙モクモク、のシーンは映画の中で今も踏襲されている。
私の忘れられないミッション・インポシブル(実行不可能な任務)は過去に数回ある。今回書くのはそのうちの一つ。

最初の子が1歳になったくらいの頃、新製品の企画が急に決まって、当時勤めていた会社の子会社に出向になった。通常なら2年ほどかかる製品を1年で完成せよ、しかも学校出たばっかりで「何にも知りません」と顔に書いてある子会社採用の新人7人を部下にして、である。私自身がまだ駆け出しであり、話しを聞いてから本気で逃げようかと悶々とする日々が続いたものである。

明るく無邪気で屈託のない彼らと話していると、経験がない、何も知らない、ということは無敵だと思った。自分に限界があることを知らないし、もしできなかったらどうなるか、ということを想像できないんだから。彼らが期待に応えてくれればうまく行くかもしれないと気を取り直し、プロジェクトは始まった。

彼らと一緒になって悩み、苦しみ、ときには叱り、そして笑い、喜ぶ日々を過ごし、ガーゼが水を吸い込むように知識や技能を吸収していく姿を見ていると私も楽しかった。自分自身もその時期人間的にかなり成長したと思うが、今にして思えば、若い頃の苦労は買ってでもせよ、という言葉は嘘でないと言い切れる。

幾度となくあった危機を乗り越えて、帰宅することもできず会社に住みついていたような生活がようやく終わり、一人前になった大勢の仲間たちを残して本社に復帰となった。

未だこれ以上インパクトのある体験は多くない。以来、どんなに困難な任務が与えられても、「あのときよりはずっとまし。そのうちなんとかなるさ」、と思えてくる。